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「望愛が、いなくなった。……昨日の夜、兄貴が望愛に会いに来たんだ」
「兄貴って……」
「望愛の父親だ」
望愛は、二度と父親には会いたくないと言っていた。
当然だろう。
自分を傷つけ、自分の母親を追い詰めた父親に、今さら会いたいと思えるはずがない。
いつかこんな日が来ることを、僕は心のどこかで恐れていた。
どんなに長い月日が経ったとしても、望愛の傷ついた心は完全には癒えていない。
今でも自分の過去に苦しめられている。
父親との再会が、望愛の心にどんな影響を及ぼすのか。
考えなくても、すぐにわかる。
「わかりました。とりあえず柊さんは、望愛の行きそうな場所を手当たり次第捜して下さい。僕もすぐにそっちに帰ります」
「瀬名くん。……本当に、すまない。俺のせいなんだ」
「話は後で聞きます」
柊さんからの電話を切った僕は、すぐに葛城に連絡し飛行機の時間の変更を指示した。
僕は激しく後悔していた。
昨夜、望愛の様子がおかしいと気付いた時点で札幌に帰っていれば良かった。
どんな手を使っても、望愛のそばにいるべきだった。
そうすれば、こんな事態は防げたかもしれない。
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