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望愛の表情が、次第に強張っていく。
こんな顔をさせたいわけじゃない。
僕だって、今の幸せを手放したいわけではない。
でも、時には変化を受け入れなければならない事もある。
「恐らく、来年の三月が札幌にいられるタイムリミットだと思う」
「……そう、ですか」
望愛は今にも消えてしまいそうな声で呟き、浮かんだ寂しさを打ち消すかのように小さく笑った。
でも、その笑みは口元だけで作られていて、目は少しも笑えていなかった。
「でも、僕は望愛を手放すつもりはないから」
「え……」
「僕についてきてくれないかな。……一生、僕のそばにいてほしいんだ」
正直、こんなに緊張を感じたのは初めてかもしれない。
諦めるつもりはないから、一度くらい断られても平気だなんて言いながら、実際この場に立つとやはり断られたくないと思ってしまった。
迷う素振りなんか見せずに、ただ首を縦に振ってほしい。
でもそんな身勝手な欲は、さすがに口には出せなかった。
強引に諭して僕の望む答えに導くことは簡単だ。
でもそれをしてしまったら、きっと僕は一生後悔する。
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