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望愛は自分の頬をつねりながら、夢みたいだと言って素直に喜んでくれた。
でも次の瞬間には、彼女の表情から喜びの感情が消えた。
柊さんと夏さんから離れること。
今の仕事を失うこと。
その両方が、頭に浮かんだのだろう。
望愛は今、長年一緒に暮らしてきた柊さんから離れ、僕と暮らしている。
でも職場ではほぼ毎日会えるため、柊さんと夏さんに簡単には会えない状況なんて、経験したことがないはずだ。
「せ、瀬名さん、私……」
「返事はすぐじゃなくていいよ。望愛が納得いくまで、ゆっくり考えてほしい。すぐに決断出来ることじゃないって、ちゃんとわかってるから」
「……ありがとうございます」
望愛は僕から視線を外し、再度夜空へ視線を向けた。
その表情は、僕が話を切り出す前に夜空を眺めていたときとは、まるで違っていた。
「……そろそろ帰る?それとも、もう少し夜景見ていく?」
「……もう少し、見ていてもいいですか?」
「もちろん」
その後も、望愛は一切言葉を発することなく、ただ夜空を見つめていた。
いつか、僕の望む答えを彼女の口から聞ける日は来るのだろうか。
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