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そしてこのときの声色で、望愛の出した答えが僕が望んでいる答えと一致しているのだと確信していた。
今すぐ答えが聞きたかったけれど、望愛も直接僕の顔を見て伝えたいのだろう。
いつもは強引な僕だけれど、この日は大人しく引き下がってしまったのだ。
望愛は僕と生きていく道を選んでくれた。
その確信が揺らぎ始めたのは、僕が札幌へ帰る日の前日。
望愛の仕事が終わった時間を見計らい望愛に電話をかけると、珍しく電話が繋がらなかった。
望愛は仕事中以外は、必ずと言ってもいいほど電話に出てくれる。
まだ仕事中なのかとも思ったけれど、何となく気になったため、再度電話をかけてみた。
すると、数コール鳴らした後に、望愛の声が耳に届いた。
その声は、この間電話で聞いたときの声とは、まるで違っていた。
「望愛、どうしたの?」
「え……」
「何かあった?……声が、いつもと少し違うから」
正確には、僕と同居を始める前の望愛の声に戻っているような印象を受けた。
望愛は数秒の沈黙の後、小さく笑った。
「……気付きました?実はさっきまで、みんなでホラー映画を見てたんです。それが怖くて……多分声に出ちゃってたんだと思います」
「ホラー映画?……珍しいね」
「なっちゃんがホラー好きなんです。でも、夜遅くに見たらダメですね。……寝れなくなっちゃいそうです」
望愛が嘘をついていることは、すぐに気付いた。
これは、誰のための嘘なのか。
僕がいない間に、彼女に何かが起きたのだろうか。
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