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息子である僕に対してさえ、こんな優しい目を向けることはない。
「少しは素直になればいいのに」
「……うるさいわね。とにかく、早く支度を終えてちょうだい。私は先に席に戻るから」
照れ隠しなのか、母は早口でまくしたて控え室を出て行った。
冷酷で感情なんて表に出さない人だと思っていたけれど、意外と人間らしいところもあるんだな。
「望愛、そろそろ……」
そろそろ、パーティー会場に行こうかと言いかけたとき、母と入れ替わりで扉のノックもなしに麗奈が入ってきた。
「ねぇ、お母さん知らない?」
「今出て行ったよ。席に戻るって言ってたから、入れ違いになったんじゃないか」
どうやら麗奈は母を探していたらしいが、綺麗にドレスアップをした望愛を見て一気にテンションが上がった。
「うわ、望愛綺麗!結婚式のときみたい!」
「あ、麗奈さん……」
望愛が麗奈の元に駆け寄ろうとした瞬間、ハイヒールを履いているからか、ぐらつき転びそうになった。
僕はすぐに望愛に手を差し伸べたけれど、僕よりも望愛のそばにいた葛城が望愛の身体を支えて、どうにか転ばずに済んだ。
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