コマチさんの標的は

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 実は、コマチさんは、一度吉峰さんの説得で、納得したことがあったのだ。  そこは、さすが、ミスターカウンタークレーマーの面目躍如で、皆、吉峰のやりとりを周囲で固唾を呑んで見守っていた。 「ああ、ご理解いただけたんですね」  そう言って、吉峰が笑顔で話を終えて、受話器を置いた時、社内が沸き立った。  しかし、それは、終わりでは無かった。  吉峰の物腰柔らかな対応に気を良くしたのか、コマチさんは吉峰を『ご指名』するようになったのだ。  しかし、吉峰は多忙で、在席していない事もある。結局、誰かしらが、コマチさんの電話対応をしなくてはならないのだ。  コマチさんの電話は、着信拒否ができない。受けてしまった人間は、切るわけにもいかず(そして、切ってもすぐまたかけてくる)、最低でも10分、長い時は30分ほど、延々、コマチさんの愚痴を聞かされる。  その多くは、香野小夜のカラオケ教室がいかに不当であるか、自分はカラパレ北川口店の秩序を取り戻す為に意見をしたというのに、こちらだけが一方的に出入り禁止になるのはおかしいという説で、同じ話を何度も何度も、繰り返し聞かされる羽目になる。  相槌を打つと、気を良くして話を繰り返し、  反論すると、一旦は「うるせー、ばかやろー!」と言って電話を切ってくれるのだが、すぐにまたかかってくる。対応してくれる人が出るまで繰り返し、誰かが犠牲になる事で、やっと納得する。という事を、週三回ほど繰り返すのだ。
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