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耳に響く罵声
「だから、吉峰さんを出してってさっきから言ってるでしょ!」
受話器から唾が飛んでくるんではないというくらいの勢いで、耳に刺さるような声に、思わず文子は耳から受話器を離した。
昼下がりのオフィス、昼休みを終えて、さあ、午後もがんばるぞ! と、着席したその瞬間にかかってきた電話に、反射的に出てしまった事を安居文子は激しく後悔した。
クレーム対応の専門部署や、コールセンターでは無い、人事課のデスクは、電話機自体不足気味で、文子は隣の席の大友と一台の電話機を共有している。
左側から引っ張り気味なせいで、絡まったカールコードを弄ぶようにしながら、文子は、相手の次の言葉を待った。
「ちょっと! なんとかいいなさいよ!」
吉峰を出せといったり、こちらが黙れば何か言えといったり、たいがいうんざりしているものの、この理不尽な電話の相手を、文子はよく知っていた。
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