ベストショット

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「話せばわかる」  いや、違うな。 「君はね、この世にたったひとつの奇跡なんだよ?」  何とも安っぽい。 「馬鹿野郎!そんな事、俺が許さねぇぞ!!」  キャラ的に無理だ。  どんな言葉をかけたらいいのか、堂々巡りをしていると、先を越された。 「……そこに居たら、危ないよ?」  そう言って、火の付いたマッチ棒を片手に、学ランが恐ろしく似合う男が俺を見つめる。さも当たり前のような、何の緊張も焦りもない口調と表情に、狂気を感じた。  ほんの数分前の事だ。帰路についていた俺は、忘れ物をしたことに途中で気付き、学校へ戻った。ほとんどの生徒が下校した後の静かな校舎は、窓から差し込む夕日がとても綺麗で、目に焼き付けておこうとゆっくり歩いた。通りがかりに、理科室の施錠が出来ていない事を発見してしまい、親切心で近づいたのが、間違いだった。 「あの……俺の計画、聞いてくれるかい?」  突然の非日常に狼狽して、頭が回らないなりにも、今自分からひねり出せるベストな案を思いつき、口にする。想像していたよりしっかり出来た発声に落ち着きを取り戻したためか、さっきまで忘れていた、理科室に充満したガソリンの匂いが戻ってきた。鼻腔が軽く痺れる。 「神原君、だよね。同じクラスの」  同じクラスの『神原君』。それ以外、俺と彼とを繋ぐものはない。彼について知っている情報は、よく言えば独創的、悪く言えば変わった男らしいという事。人と関わったりしない奴だという事。そのためか、別段害はない奴だという事。あとは、俺は今日初めて神原君と話をしたという事。 「そうだよ。覚えててくれてありがとう」  神原君が、少しはにかんだ様子で、マッチの火を見つめる。木の部分が半分くらい黒くなり、その分炎が長くなっている。最悪なのは、ひねり出したベストな案を試す前に、神原君の指が脊髄反射でマッチを手放してジ・エンドになるパターンだ。俺は、炎の速さを追い越す勢いでまくし立てる。
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