ベストショット

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「ただこの画像を拡散しても、合成じゃん?で終わってしまいますので、小細工をします」  勝算はある。神原君の奇行は、勢いによるものだ。俺なんかの話に耳を傾けるくらいだ、喉元過ぎれば冷静になり、バカな考えだったと反省するに違いない。今はとにかく、神原君がクールダウンするための十分な時間と、良心を揺り動かす悪行が必要だ。 「神原君、俺達は今から次の物を用意します。紙、新聞紙、紙コップ、トイレットペーパー、テープ、はさみ、のり、手袋、炭酸系のジュース。なるべく学校にあるもので間に合わせよう」  俺は近くの調理室から紙コップと手袋、資源ごみ置き場から新聞紙と紙を調達し終え、神原君を待つ。戻ってきた神原君の顔が、赤い。 「トイレットペーパーが男子便所になくて……女子便に初めて入った」 「が、がんばったね」 「で、どうするん?」 「はい。まず、この紙と新聞紙を使って、脅迫文を作ります。指紋が残らぬよう、手袋をつけて作業しましょう」  内容やレイアウトは神原君に任せたが、彼は見事に作り上げた。『イツモミテイルヨ』 「次に、俺が念のためにと財布に入れてあるピーを取り出します。ちなみに、3年間御要りようだったことはありません」 「……へぇ」  俺の渾身の自虐ネタは不発に終わる。 「そして、神原君が苦労してとったトイレットペーパーで、バラを作ります」  神原君に作り方を教え、二人で黙々と、バラを10個作った。白いバラの花言葉は「純潔」だ。もちろん知っててやっている。 「これらを明日、皆が登校する前に渡辺さんの机に飾り付けます。学校中が大騒ぎ」 「なるほど、写真の信憑性が増すね。紙コップとジュースはなんに使うの?」 ジュースを注ぎ分けて神原君に手渡す。炭酸が弾ける音が小気味良い。 「祝杯をあげるためです。乾杯」  紙コップだから小気味良い音はしなかったが、なぜか気分が昂ぶった。 「ありがとう。これでオレは渡辺さんの永遠だ」 「……うん。卒業式、来るよね?」 「もちろんさ。また明日」 「ああ、また明日」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加