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こんなに早い時間に登校したのは初めてだった。だから、「門が開いていないかもしれない」という非常事態を来る途中に思いついてしまったが、結果的には、開いていたので問題なかった。学校の先生も大変だな、と思った。
さて、どうしよう。俺は、渡辺さんの教室の前で、神原君を待つフリをしながらフル回転で考えていた。神原君が一晩寝ても冷静になっておらず、「やっぱりやめよう。渡辺さんを傷つけたくない」って言ってくれなかったら、どうしよう。
「おはよう、早いね!」
答えどころか突破口すら見つけられていないうちに、招かれざる客がやってきた。
「渡辺さん!?卒業式10時からでしょ?なんで?」
本当の美人は、こんなに朝早くても美人なんだな、と、訳の分からない発見をしてしまう程、俺は焦っていた。もちろん、ここへもうじき神原君がやってくる事など、脳内から外へ吹っ飛んでしまっていた。
「ふふっ。キミに言われたくはないなー。坂上先生が今日、季節外れのインフルでお休みでね、皆に手紙を書いたから、机の中に入れて置いてって、頼まれたの」
担任がクラス全員分書いた手紙入りの封筒の束を見せながら、渡辺さんがくすりと笑う。
「それにしても、最後まで締まらない先生だったなー」
「お、お、俺も手伝うよ!」
「なんで?クラス違うじゃん」
「いや、坂上先生にはホントお世話になったから」
「そっか。じゃあ、お願いしますっ」
座席表を見ながら、机の中に手紙を入れていく。結構重要な作業の一端を担っているな、と思った。机を間違えたら、サプライズが台無しだ。
「あれ?」
渡辺さんが何かに気付いた。同時に俺も、忘れていたことを思い出した。神原君だ。神原君の登場だ。俺は瞬時に理解した。もう、見守る事しか出来ない。
「神原君だ。おはよう、早いね?」
神原君が、目を見開きフリーズする。しばらくして、しぼり出すような声で言った。
「……っ……渡辺さん、オレの名前、覚えてたんですか?」
俯いて、肩を震わせている神原君の表情を盗み見る。今にも泣きそうだった。突破口が見つかった。いけるかもしれない。
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