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「そこからですかね、絵を描き始めたのは。落ちこぼれだってイジけて何もしないんじゃなくて、何かを一生懸命してみようと思ったんです。先輩が美術部へ誘ってくれなかったら、きっと絵とも無縁の生活でしたね」
相槌を打ちながら、インタビュアーの斎藤がメモを取っている。
「では、絵を始めるキッカケは20年前の初恋だった。そんな見出しにしても構いませんか?」
「構いませんが……そんなタイプじゃないですよね、容姿も作風も」
「いかつい顔の先生だから良いんですよ。ギャップ萌えってやつです。若い女性にも人気出ちゃいますよ」
苦笑しながら、こんな状態の自分を見て、先輩は何と言うのだろうかと考える。
「因みに、その先輩とお付き合いはされていたんですか?」
いいえと結城が首を振る。
「残念ながら、その後は先輩とゆっくり話す機会もなく卒業しちゃって。せめて規格外はチャンスなんだと教えてくれたことのお礼を、いつか言いたいですね。僕のこと覚えてないかもしれませんが」
学校中が覚えてるって言ったでしょと筆を振り回す先輩の姿が浮かんで笑いそうになるのを堪えながらアイスコーヒーを飲み干した。
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