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正月をみんなと過ごしてからの入所なので
退院後、ひいばあは一時的に自宅へ戻った。
その間に施設へ持たせる物を準備しなければならなかった。
施設の部屋はトイレと洗面所がついたワンルームで持ち込めるのは着替えと必要最小限の物だけだ。
何を持たせてやるべきか、祖父母とお袋はひいばあの様子を見ながら居間を、俺と親父は寝室を選別がてら整理することになった。
廊下の一番奥にある寝室は布団の上げ下ろしが大変になった20年ほど前から使用しておらず、曽祖父とひいばあは居間の隣の和室にベッドを入れて寝起きしていたが、大切な物は寝室にしまったままになっている筈だった。
俺達は押入れやタンスの引き出しから持たせた方がよさそうな物を探し出し、後は元に戻した。
そして最後にふと目についた文机の細長い引き出しを開けた。
中にはA4くらいの大きさの重厚な黒塗りの箱が入っていた。
俺は蓋を開けた。
中には箱と同じサイズの古めかしい茶封筒。
茶封筒に入っているものをそっと出した。
数本の鉛筆や色褪せたノート、数冊の本、小さく折られた半紙、艶のある生地でできた白いマフラー、黄ばんだ紙に鉛筆で書かれた雀の絵、そして遺書と書かれた手紙と一枚の写真。
遺書は昔ながらの文字と文章で内容はあまりよくわからなかったが、ひいばあへの感謝とくれぐれも元気でと言うようなことが綴られているようだ。
折ってある半紙を慎重に開くと短い髪の毛。
ドキッとした。
もしや遺髪と言うヤツか?
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