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「親父、これ・・・。」
押入れを整理していた親父に声をかけた。
「ああ・・・良郎さんの遺品だ。この写真と一緒に ひいばあがとても大切にしていたんだ。」
親父が指差した白黒写真を見ると、満開の桜の木を背に小柄なモンペ姿の女性と背の高い男性が照れ臭そうな笑顔で写っていた。
若かりし日のひいばあと良郎さんだ。
良郎さんは仏間の遺影より遥かに柔らかい表情をしていて、この写真で見るとひいばあが言っていた通り、少し自分と似てるかもと思った。
「これは持たせた方がいいな。」
写真を見つめたまま親父の言葉に「うん・・・。」と頷いた時、ふと俺の脳裏に閃くものがあった。
「親父。ひいばあがいつも言ってる桜って、きっとこの写真の桜のことだよな?」
「多分、そうだろう。」
「もしかしてこの桜、残ってるんじゃないか?」
「えっ?」
「ほら、日本人って妙に桜が好きだろ?なかなか立派な桜の木みたいだし、よほどのことが無い限り切ったりしないんじゃないか?」
「まぁ、確かにそうかもしれないな。」
「ここ、何処かわかんない?」
「それはじいちゃんに聞いた方がいい。」
「そうだな。ちょっと聞いてくる!」
俺は写真を持って居間にいる祖父のもとへ走った。
祖父はひいばあが一度だけ、その桜について話したことを覚えていた。
ひいばあを乗せて車を走らせている時、昔、弟とこの辺に住んでいたと言ったらしい。
そして庭に綺麗な桜の木があって、弟と一緒に花見をしたとも。
それはうちから西へ車で30分ほどの、国道からスキー場へ登る道路の向こう側だったらしい。
高校のスキー学習の時にバスで通っていた辺りだ。
かなりざっくりだがおおよその場所がわかれば探し出せるかもしれない。
ひいばあに思い出の桜を見せてやれるかもしれない。
俺の心は踊った。
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