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俺達はおじいさんに声を掛けた。
「あの、すみません・・・。」
気づかない。
耳が少し遠いのかも。
「すみません!」
俺が大きめの声で言うと、おじいさんはやっと振り返った。
「なんだね?」
訝しげに俺達を交互に見つめる。
「突然、すみません。私共はこの桜の木を
探しているのですが、ご存知ないでしょうか?」
親父が写真の木を指差すと、おじいさんは覗き込む ように顔を近づけてしげしげと見入った。
しばしの沈黙の後、眼鏡の奥の小さな目が見開かれた。
「おおっ!これは懐かしい・・・。」
「ご存知なんですか?」
親父も俺も思わず前のめりになった。
「ああ、このお二方のことは絶対に忘れん。」
「お二方・・・?」
「この人達を知ってるんですか!?」
俺が尋ねるとおじいさんは頷いた。
「知っておるよ。こちらがお姉さんで、こちらが弟さんだ。わしと妹の恩人じゃよ。」
「恩人?」
「そう、恩人じゃ。戦時中のあの物の無い時に病気の妹の為、見ず知らずのわしに栗を分けてくれたり南瓜や鉛筆まで下さってのぉ。」
「そうでしたか・・・。」
「あなた達はこのお二人とどういうご関係じゃ?」
「私は姉の方の孫で、こちらがひ孫です。」
親父の言葉に、おじいさんの表情がパッと明るくなった。
「お身内の方でしたか!何と奇遇な!!これも何かのお導きかのぉ。」
「それで、この桜の木は何処に?」
そう喉まで出かかったが、おじいさんが
「あれはわしが11歳の時だから昭和18年のことじゃ・・・。」と遠い瞳で語り始めたので、逸る気持ちをグッと 堪えてまずは話に耳を傾けた。
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