プロローグ

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“大往生だったね。” 葬儀の時に親戚の誰かが言ったひと言が今も耳に残ってる。 享年97。 確かにその通りなんだろう。 昨年の5月に亡くなった曽祖母のことだ。 曽祖母の来生 ハナはいつもニコニコしている可愛いおばあちゃんだった。 優しい声音でおっとりと話す独特の口調に誰もが癒され、親しみを覚えた。 終戦後まもなく和菓子屋を始めた三つ年上の曽祖父と結婚し、徐々に店の規模を広げ、今では北海道だけでなく全国的にかなり名の知れた企業となった。 とても小柄であるが芯は強く、温和で思いやり深い彼女は従業員達にも慕われ、今日(こんにち)までの会社の成長を影で支えた。 かく言う俺、来生 貴也(たかなり)も曽祖母のことが大好きだった。 俺は彼女を“ひいばあ”と呼び、ひいばあも「貴ちゃん、貴ちゃん。」ととても可愛がってくれた。 俺の家と祖父母、そして曽祖父母の家は日本庭園風の庭を中心に3軒が同じ敷地に建っているので、小さな頃から俺は曽祖父母の家に入り浸り、いつもひいばあの後をついて歩いていた。 勿論、自分の両親や祖父母のことも大好きだった。 ただ不思議なくらいひいばあのそばが、より居心地がよかったんだ。
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