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雪解け水で路面は濡れているにしろ夏用のスニーカーでも外を歩けそうな今日は、春分の日で彼岸のど真ん中でもある。
曽祖父が亡くなった14年前からこの日はよほどのことがない限り、車で10分ほどの霊堂へお参りに行くのが我が家の習慣となっていた。
今年もそれは変わらず、午前中のうちに両親と弟と妹、祖父母に勝おじさん一家と手を合わせに出かけた。
ちなみに勝おじさんは親父の弟だ。
昨年のお盆もそうだったが、いつも一緒にお参りをしていたひいばあがいないのがとても寂しかった。
ひいばあも曽祖父と共に拝まれる立場になったのだから仕方ないけど、俺がそれに慣れるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
お参りを済ませた後、祖父母や勝おじさん達が俺の家に寄ってひいばあの思い出話などをしながらお茶を飲んだ。
昼食も一緒にと言う運びになったが、俺は約束があるので席を立った。
「俺、晩メシはいらないから。」
キッチンに立つお袋にそう声をかけてからリビングにいるみんなに改めて挨拶をして玄関で靴を履いていると、親父が出てきて冷やかすように言った。
「また、はなちゃんか?」
俺は照れ隠しに親父を軽く睨んだ。
「そうだよ。悪いかよ?」
女友達には「タカのお父さんってダンディでカッコいいよねぇ。」なんてよく言われるけど、親父は見かけによらず結構野次馬で、俺のカノジョの話をやたらと聞きたがる。
これから会うはなちゃんとは面識があるもんだから、余計に首を突っ込んでくるんだ。
親父はニヤリと笑った。
「いや、大いに結構。ただ人様の大事なお嬢さんなんだから、怪我なんかさせないように運転にはくれぐれも気をつけろよ。」
「わかってるよ、そんなこと。じゃあ、行ってくるから。」
「泣かせるようなこともするなよ。」
「しねぇしっ!」
そう叫んで、ドアを力一杯バタンッと閉めた。
ああ、イラッとする。
人の気も知らないくせにちょくちょく口を挟むのはやめてほしい。
まだ泣かせるようなことができる関係ですらないっつーの。
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