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俺は駐車場に出て、黒い軽自動車に乗り込み
音楽をかけた。
好きな曲を聞きながら『これから向かうよ。』とはなちゃんにメッセージを送った。
すぐに『はーい、気をつけて。』と言うメッセージと、可愛い鳥が『よろしくお願いします。』とペコリと頭を下げているスタンプが返ってきた。
はなちゃんは最近このシリーズのスタンプが
お気に入りらしい。
思わずフフッと笑いが漏れて、親父に対する
イライラも消え失せた。
それから西へ車を走らせること30分。
国道から左折すると、小路を僅かに登った道端に2人の女性が佇んでいるのが見えた。
はなちゃんとお母さんだ。
彼女を家へ迎えにくると、かなりの高確率で
お母さんとも顔を合わせる。
俺はハザードを出して車を左に寄せて停めて
一度車を降りた。
「こんにちは。」
挨拶をするとはなちゃんよりも先にお母さんが
話し始めた。
「いつも迎えにきてもらってごめんなさいねぇ。不束な娘だけど、今日もよろしくね。」
「お母さん、やめてよ!恥ずかしいなぁ。」
はなちゃんが顔を赤らめた。
「だってあんたってばおっちょこちょいだから貴也さんに迷惑かけないか心配なのよ。はなが何かやらかしたら遠慮なく怒ってやってね。」
「はぁ・・・。」
俺は何と答えていいかわからず、ひとまず苦笑を返した。
「ほら、貴也さんだって困ってるでしょ。見送りは いいからもう家に入って!」
「はいはい。貴也さん、すみませんがよろしく
お願いします。」
「はい、では失礼します。」
小さく頭を下げて車に乗った。
はなちゃんが助手席でシートベルトを締めたのを確認してから、娘の言いつけなど聞く気もなく眩しいくらいの笑顔で見送ってくれているお母さんにもう一度頭を下げて、静かにアクセルを踏んだ。
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