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外出するための準備を整え終えたシャルティは、ザンキの返事も聞かずに扉を開け放って、外へと通じる石階段を登っていった。
遠ざかる足音を聞きながら、ザンキはため息をついた。
「ったく、自分勝手過ぎんだろ…。あいつが主じゃなかったら、消し炭にしてたところだぜ」
と文句を垂れ流しつつ、ザンキは受け取ったメモリースティックを持って作業部屋から出た。
「えーと、依頼主は…リーネイマ洞窟のリザード一族だったか。あの辺はサイタマゴリアに近ぇから、人類の襲撃を受けやすいんだよな。早く渡してやんねぇと」
実はザンキは魔物の面倒見が良く、他の魔物から「アニキ」と慕われていたりする。あまり持て囃すと照れて怒り出すが、それすらも愛おしく思われているのだ。
そんな優しいザンキは、地下8メートル地点に存在するシャルティの作業部屋の扉をしっかり施錠して、上の階へ向かった。
1階にはリビング、ダイニング、キッチン、バス、トイレ、寝室があるが、どこも物が散乱していたり、埃が滞積していたりと、不潔極まりない。
シャルティの生活能力がいかに壊滅的か、部屋を一見しただけで浮き彫りになってしまう。
「…どうせあいつに掃除しろっつっても聞かねぇだろうなぁ。仕方ねぇ。後日、掃除屋でも雇うか」
今すぐにでも掃除に取りかかりたいザンキだったが、依頼主に罠を届けるという使命を優先し、シャルティ宅を後にした。
そして家から2メートルほど先の地面にへたり込み、ぜえぜえと全身を上下に揺らし、必死に呼吸を整えているシャルティを発見した。
「…なにやってんだてめぇ。」
「ざっ、んきっ…はぁっ、はぁっ…す、すたみなっ……つき、尽きた…はぁ、はあ…っ」
そう、このシャルティは体力・筋力・持久力が極端に低く、ほんの少し少し走っただけでも息が上がってしまう、生粋のモヤシ娘なのだ。
野外での移動はいつも牛人が引く人力車に頼り、ダンジョンでは裏道を通って人類を待ち構えるだけ。
こんなことでは筋力がつくはずもなく、彼女の肉体は肉感的な方向にばかり成長していた。
「…ざ、ザンキ…はぁっ…じんりきしゃ、よ、呼んで…」
楽な交通手段に頼ろうとするシャルティを眺めて、ザンキははっと閃いた。
「…いや、これはてめぇの根腐れした性根を叩き直すチャンスかもしれねぇな。よしシャル、てめぇは今日から人力車での移動禁止な。」
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