試作品:闇堕ちしたら人生楽しくなりました

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 彼の名はブルムスト。通称ブルム。  ザンキはブルムの方をちらっと眺めて、すぐシャルティに視線を移した。 「おうブルム、ちょいと黙ってな。今ぁこのだらしねぇ(ポッチャリ)に説教してるとこだからよ」 「と言われてもなぁ…。シャルちゃんが泣いてちゃ、見過ごしにくいというか、なんというか」 「気を、つかわなくていいよ、ブルム…。…これはっ、私の認識が甘かったせいっ…私の責任だからっ…!」  (でも、仁侠劇の落とし前つけるシーンを見せられてるみたいで落ち着かないんだよなぁ)  5本指のうち、人差し指で頬をポリポリと掻くブルム。 「続けて…ザンキ、もっと続けて…私を厳しく、口汚く罵って……!」 「ダラダラと部屋でピザと揚げ芋ばっか食ってるから太るんだろうが!!自制ってもんを覚えやがれカスが!!」  (うーん、なんだか仁侠劇じゃない別のものに見えてきた気がする。)  ひどく罵られて若干恍惚の表情にも似ただらしない笑みを浮かべ、涙を流すシャルティ。その様相は、どこか不健全な香りが漂っていた。  その後、ザンキの愛のあるお説教は、休憩を挟みつつ30分ほど続いた。 -----  午後5時46分。  吹き荒ぶ砂嵐のなか、重っ苦しい曇天を背に歩く人影があった。   ここは、踏み込む度になぜか地形が変わる、不思議な魔物の住処。人類の間で「ダンジョン」と呼ばれているエリアだ。 「ひい…ひぃ…や、やっと…ついた…っ」  慣れない徒歩移動を続けること、約8時間。シャルティは足腰をガクガク震わせながらも、道中で拾った棒を支えにして、トウキョウィズダム北北東部、バシィータ古代遺跡入り口前にやって来ていた。  黄土色のレンガを積み重ねて造られた、約2メートルほどの立方体。その真ん中に、ギリギリ人ひとりが通れそうな穴が空いている。ここが遺跡の入り口なのだ。  まあ、仰々しく遺跡と言うが、元は単なる魔物の住居だが。  遺跡周辺は砂漠化が進行しており、サラサラした細かい粒子状の砂と暴風によって、人類の侵攻を拒む。そのため人の足で遺跡に到達することは、困難を極めるのだ。 「ここ…と、徒歩だと…はぁ、はぁ…きっ、きつい…」  シャルティの拠点がある下町・シツカから遺跡までの距離は、直線距離にして約16キロメートル程度しか離れていない。  だが、砂漠の砂地と日頃の運動不足が祟ったせいで、彼女は既に満身創痍だった。
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