試作品:闇堕ちしたら人生楽しくなりました

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 ちなみに設置を義務付けたのは…言うまでもないだろうが、全世界の魔物の頂点に君臨する唯一の存在、魔王「グリフレスト」だ。  仰々しく魔王と呼ばれているものの、グリフレストは別に世界を牛耳ろうとか、すべてのものを手中に収めようと企んだりしているわけではない。  逆に、争い・いさかい・殺生を何よりも嫌い、常日頃から魔物(なかま)人類(てき)も大切に想っている、穏和な淑女だ。  外見は人間の成人女性(20代前半くらい)とさほど変わらないが、中身は生粋の魔物。  彼女が発する声は魔物のそれと同じく、ただの人間には、獣の鳴き声のようにしか聞こえないらしい。  もっとも、魔物の言葉を理解し、彼らと不自由なく会話できるシャルティにとってはにわかには信じられないことだが。  と、グリフレストのことを思い出していると。 「あ、そうだった。…はやく行かなきゃ。魔王(まおー)遺跡内(ダンジョン)で待ってるよね…」  穴を通り抜けられないショックが大きすぎて、シャルティは今回ここに来た目的を忘れかけていた。  その目的というのは、バシィータ古代遺跡地下8階のとある場所で、グリフレストと会うこと。  3週間前のシャルティの予定では、早朝起床&人力車移動で午前8時頃には遺跡に到着していたはずだったが、まるで呪われたかのような予定外の連続により、大遅刻してしまっている。 「うー…なんで、こんなことになったんだろ…(※全部自分のせい)」  落ち込んでいても埒があかない。時間を浪費するだけである。  シャルティは砂を握りしめ、餓えと枯渇に苦しみながらも必死に考える。 「どうしよ、どうしよ…。レンガがしっかりと組まれてるから、入り口は広げらんないし、胸を外すことも難しいし…」  この入り口は、人類の侵入を拒むためにわざと狭く組み直されている。  なにせここを出入りする魔物は、体長1メートルほどの卵のような形をしたモグラ型の魔物だからだ。  正攻法では無理だと判断したシャルティは、左手首のカフスに忍ばせた、4本の薄型メモリースティックを手にした。 「そうだ…手持ちの罠で…どうにか、ならないかな…。なんの罠、持ってきてたっけ…」  このメモリースティックは、剣士の「(つるぎ)」や弓術師の「弓」といった、罠職人であるシャルティ専用の武器である。
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