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魔法陣がカッと輝き、砂地に直径2メートルほどの丸い穴がポッカリと開いた。
シャルティは意識を手放す寸前、不安定な浮遊感に抱かれながら、耳を掠めていく風切り音を聞いた。
ここで無情にも、シャルティの意識は完全に途絶えた。
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同時刻、下町・シツカのシャルティ宅。
配達という名目のパシりを30分で済ませたザンキは、ゴミ屋敷…もとい、シャルティ宅の掃除を隅々まで済ませ、言い付け通りのガツンとした肉料理…牛&豚カツwithキーマカレーを用意して、主の帰宅を待っていた。
「ったく、おせぇな。せっかく俺様が手作りしてやったっつーのに、どこほっつき歩いてやがんだ、あのカスは」
黒いエプロンと三角巾を身に付けたザンキは、数時間前に仕込んだキーマカレーを煮込みながら、文句ばかり垂れていた。
厚底フライパンの底にルーが焦げ付かないようトロ火にして、標準サイズのお玉を抱き、飛び回りながらかき混ぜる劫炎斬影竜。
「まぁ、カレーは手間と時間かけた分だけ美味くなっからいいんだがよ。今回は特に手間がかかってるからな…。多めのバターでみじん切りにしたタマネギをじっくり炒め、片側に焦げ目をつけた牛と豚の合挽き肉を混ぜ合わせ、そこにペースト状のニンジン、ピーマン、ナス、大量のトマトを入れ、野菜の水分だけで煮込んだ逸品だぜ」
誰が居るわけでも無いのに、独り言を漏らしまくるザンキ。
「そして俺様が栽培し乾燥させた新鮮無農薬香辛料を俺様自らブレンドし、惜し気もなく使ってやった…。へっ、そこらへんで売ってるカレーよりウメェこと間違いなしだぜ、コンチクショウが」
カレーに限ったことではないが「料理に完全な正解はない」というのが、ザンキの格言だ。
人類の尺度からすれば、彼らドラゴン種の寿命は永劫かと思えるほどに長いものだ。そのため、どうすれば生に飽きること無く、有意義な毎日を送れるのかと考え、ひとつのことに傾倒してしまうらしい。
魔王グリフレストいわく、大抵のドラゴンは学術的知識に魅力を感じ取り、叡智を求め、やがて魔物界の賢者的役回りを担うことが多いという。
ザンキの場合だとこれが「家事全般」、特に料理分野に傾倒した珍しいケースだそうだ。
そもそもドラゴンという種族の大半が体長20メートルを越す大型種で占められているので、ザンキのように、町に住居を構えて生活すること自体困難なのだ。
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