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なのでドラゴン種は基本的に定住はせず、一定期間同じ地域に留まり知識を蓄え、やがてまた別の場所に移動する。
そうして得た知識を行く先々に伝え、その土地で新たな知識を蓄え、また移動して…と、永く繰り返すのだ。
この現象を、魔物たちの間では「竜巡叡智」と呼ぶ。
ちなみに以前シャルティがザンキに「竜巡叡智しないの?」と聞いたところ「あぁ?他のやつらみてぇにあちこち飛び回ってちまちまお勉強なんざしねぇよ。俺様のガラじゃねぇしな」と、竜巡叡智は行わないと断言している。
しかし、彼が蓄えている生活や料理の豆知識を近隣の奥様方に伝授することも、一種の竜巡叡智であるのではないかと、シツカの魔物たちの間でまことしやかに囁かれている。
そんな主婦の味方はガスコンロの火を消して、頬を伝うひとすじの汗を腕で拭った。
「ふー…よし、煮込みはこれで十分だな。後は仕上げに、俺様の炎で…」
劫炎斬影竜が口から火炎を吐こうとしたその時。
バンッ!!
部屋の扉が外から内側へ、物凄い勢いで開け放たれた。そして、黒い巨体が慌ただしく飛び込んできた。
「だっ、ダンナ!ザンキのダンナは居るかい!?」
忙しなく現れたのは、鍛冶屋を営むブルムだった。ザンキは発動しかけた火炎放射を取り止めて、リビングへと飛んだ。
「おう、誰かと思やぁブルムじゃねえか。どうした、珍しく騒々しいな」
「ああ、ごめん…じゃなくって、大変なんだ!」
一瞬素のテンションに戻ったブルムだったが、すぐにまた慌て始める。普段落ち着き払っている彼の形相から察するに、ただ事では無い様子。
ザンキは表情を引き締め、唸るような低い声を溢した。
「どうした。何があった」
「それが…。さっき、サイタマゴリアとトウキョウィズダムの境を監視してた物見の魔物に聞いたんだけど、今日の昼頃に、24人の武装した人間…英傑師団の戦闘小隊らしき集団が、バシィータ古代遺跡方面に向かってたって…!」
ブルムの話を聞いたザンキの表情が、より険しく曇った。
「英傑師団…。俺様達を人類の敵と決めつけて、一方的に虐殺しやがる連中が、今さら何しに来やがったってんだ。しかも24人っつーことは、出撃限界数じゃねぇか」
「ああ…嫌な予感がする。今、バシィータにはシャルちゃんと魔王様が居るんだろう?」
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