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「チッ…最近ナリを潜めてたと思ったら、奴らぁ今日を狙ってやがったのか…!」
ザンキは三角巾とエプロンを脱ぎ捨て、物凄い速度でキッチンに向かい、フライパンに蓋をして戻ってきた。
「ブルム、てめぇは念のためここに残れ。英傑師団の分隊が来ねぇとも限らねぇからな」
「わかった。ダンナは…いや、聞くまでもないか。気を付けて行ってきて。くれぐれも、シャルちゃんと魔王様を…」
「へっ、それこそ言われるまでもねぇ!!」
ヴンッ。
ザンキは残像が生まれるほどの速度で空へと飛び立ち、茜色の陽に全身を赤く染められながら、バシィータ方面へ向かった。
まともに見送ることも叶わなかったが、ブルムは扉を締め、しっかり鍵をかけた。
「シャルちゃん、魔王様、ダンナ…。どうか、無事に帰ってきてくれよ」
ブルムの願いは静まり返った部屋にすぅっと溶けて、やがて消え入った。
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午後6時14分。
ざらついた柔らかい砂の感触を頬に覚えながら、シャルティはうっすらと目を覚ました。
「ん……」
次いでひんやりとした温度を肌に感じ、それから身体の左側がやけに痛むことに気付いた。意識は少し濁ったままだが、感覚ははっきりしているらしい。
(…私…どうしてたんだっけ…。ああ、そうだ…急に目眩がして、うっかり落とし穴の罠魔法を発動させちゃって…)
シャルティは遺跡の真上で1階層下に落下する落とし穴の罠にはまったため、偶然内部に侵入できたのだ。
しかし、落下の衝撃で頭を激しく打ちつけたのか、視界が真っ暗で、身動ぎすらできない。
(…この遺跡の中って、至るところにロウソク型LED照明が設置されてたはずだけど…何も、見えないな…)
耳にも何かが詰まっているような感覚があった。
情報を感じ取る器官の大部分が麻痺していては、状況を把握することすらままならない。
(…いや、まだあきらめちゃだめ…だよね。せっかく、ここまで来れたんだし…)
と、シャルティは前向きに考え、行動してみることにした。
そのためにはまず身体が動かなければならないが、現状どの程度までならば動けるのか。指先に力を込めてみた。
そして、あることに気付いた。
(…あれ、私の腕…これ、後ろ手に、縛られてる…?)
手首を締め付ける、チクチクと毛羽立った荒縄の感触が、ありありと感じられた。
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