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男性はシャルティにずいっと顔を近付け、否が応にも視界に入ろうとしてくる。しかしシャルティは瞼を下ろして抵抗する。
「おい貴様、こちらを見ろ」
「嫌。人類の顔なんか見たくもない。至近距離なら、なおさらね…」
「人類?貴様も人間ではないのか」
やけに上から目線で矢継ぎ早に質問してくる男性に、シャルティは小さな違和感を覚えた。
「(こいつ…英傑師団のクセに、私の事知らないの?…まさか、英傑師団じゃないとか…)」
シャルティは確認のために嫌々薄目を開いた。
目の前にいたのは、意外にも端整な顔立ちの20代前半とおぼしき男性だった。髪は灰色で、清潔感のあるウルフ系。
前開きの黒いロングコートの下には、襟に白いラインが入った群青色のワイシャツと黒のベスト、それから黒のスラックスを着用している。
シャルティにとっては見慣れた、だからこそ忌むべき服装だった。
「(…いや、やっぱ間違いじゃない。これは、英傑師団員が出撃時に着る服だ…)」
服装だけで男性が英傑師団だと判明した。だからこそシャルティの疑問は肥大化の一途を辿った。
「(英傑師団が…いや、そもそも人類が私を知らないなんてことは、あり得ないはずだけど…。聞いてみるしかない、かな…)」
シャルティは完全に瞼を開き、男性の瞳を見つめた。男性は変わった形をしたシャルティの紅い瞳に一瞬怯んだが、すぐ平静を装った。
「…あんた、どこの英傑師団…?「人世の裏切り者」の話とか、知らないの…?」
「俺はサイタマゴリア英傑師団に所属している。と言っても、数ヵ月前に北大陸からパジャンに移り住んだばかりだ。人世の裏切り者については、噂程度に耳にした。詳細が気になっているんだが、団員に聞いても答えようとしてくれず…」
シャルティの質問に対して、予想外の長ったらしい返答を繰り出す男性。
会話がシャルティは、ややうんざりしつつ断片的に彼の話を聞いた。
「(出身とか別に聞いてないけど…本土から来た人間なんだ。見ず知らずの相手に身の上まで話すなんて…ばか正直っていうか…こいつ、英傑師団員らしくないなぁ…)」
男性の長話に耳を傾けながらも、やはり話しかけるべきではなかったと後悔し始めていた。
「しかし先の貴様の口ぶりから察するに、人世の裏切り者について、何か知っているようだな。詳しく聞かせて貰おうか」
「(説明する義理とか無いんだけど…)」
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