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--なぜ人は魔物よりも強欲で、いやに好奇心旺盛なのだろう。
なぜ危険を冒してまで新天地へと向かうのだろう。
自らの手が届く範囲…魔物に襲われる心配がない「街」のなかで、慎ましやかに暮らしていれば良いだけなのに、なぜわざわざ魔物の住処である「ダンジョン」に赴くのだろう。
…人の世を捨てた私には、もう人の心を理解することが出来ない。
けど、それでいいんだ。
私は、人の世に仇為す人類の敵。
人ならざる異形の化物、魔物たちによって構成された魔都防衛軍唯一の罠職人。
そして、私を陥れた「人」という醜悪な生物に、間接的に絶望を与える復讐者。
--それが私、シャルティ=エレトランの在り方だ。
「おいゴルァ、居眠りしてねぇで早く注文分の罠納品しやがれやシャル。期日間近だぞ」
「はっ…」
穏やかでありながらも厳つさを孕んだ男性の低い声が、シャルティの鼓膜を揺さぶる。
それと同時に、大型の蜂が羽ばたくような「ブゥ~ン」という感じの不快極まりない羽音が聞こえた。
「ん…んんん…っ」
ここでようやく自分が椅子に座ったまま作業台に突っ伏して眠っていたのだと知り、シャルティは薄闇のなかで小さく欠伸をした。
「ふあ…ぁあ…」
紅色のドラゴンを模したヘッドギアを被ったまま、淡く藤がかった青い髪を揺らし、シャルティは上体を起こした。
まだかなり頭がボーッとしているようだ。
すこぶる眠たそうに瞼を擦りつつ、机の上に落ちた髪留め用リボン(黒色)を手に、腰あたりまで伸びたボサボサの髪をまとめ始める。
その間もシャルティの直近では、不快な羽音が絶え間無く奏でられていた。
「ったく、悠長に髪なんか結ってんじゃねえよ。んなことする暇があんなら、先に作った分の「罠魔法術式」出しやがれ」
やけにシャルティを急かしているこの人物…いや、魔物の名は…
「ザンキ、うるさい…」
ザンキュレート∞(インフィニティ)。
通称「ザンキ」。
松茸のようなフォルム、コウモリのような幅広く尖った耳、額に生えたサイのような角、ハエのような羽、亀のような尻尾を生やした、約10センチほどの魔物だ。
生物学的に分類すると、彼いわく「ドラゴンに決まってんだろ」とのことだが、とてもそうは見えない。
ちなみに表情は(´・∞・`)←こんな感じ。
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