私だけが知っていたのに

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私だけが知っていたのに

 先輩はこの頃、2年女子バスケ部員から人気だ。  美咲も女子バスケ部2年の一人だけど、ミーハーな皆とは違うと思っている。もともと先輩は、皆に知られている存在じゃなかった。  他の部員に比べて背も高くないし、髪もスポーツ刈りで全然オシャレじゃない。美咲は先輩の顔はけっこうカッコいいと思うけど、先輩と同級生の3年女子は魚くんってあだ名を付けていたことがある。クチビルがちょっと厚くて大きいかららしい。  ようするに見た目で、もてキャラになったり、ファンが出来たりするタイプじゃないのだ。  じゃあバスケ部員なんだから、プレーがすごいのかっていうと、どっちかというと地味だ。他の部員の多くは小学生の頃からミニバスケットチームに入っている。でも先輩はいわゆる中学デビューだ。かなり不利。だから目立つシュートするようなプレーヤーじゃない。  だけどコツコツ努力して身につけたディフェンスはハッキリ言ってもう部内一だと思う。ひいき目じゃなく。ただディフェンスはオフェンスほど目立たない。先輩のプレーはキャーキャー言われる要素は少なめだ。  (だから安心していたのに。)  (だから私だけが、先輩の素敵さを、かっこよさを、笑顔を、独り占めだと思っていたのに。)  先輩は変わらない。でも皆が目だたない先輩に気がついてしまったんだ。気が付いてしまうと、先輩のいぶし銀な腰の低いディフェンスにも、  「すごくない?あんなに低いディフェンス保つとか、出来ないよね。」    「先輩、中学デビューなんだよー!かっこいいー!」    と皆でキャアキャアするようになってしまった。そんな時、もちろん美咲も先輩素敵トークに参戦する。もし何も言わなかったら、  「美咲は先輩は好きじゃないんだよね?」  などと言われて、遠慮しなきゃいけない事態になったら困るからだ。秘密でバレンタインのチョコを知らないところであげられたり、告白なんかされたら困るのだ。それに単純に先輩素敵って言えるのは気持ちいい。試合の応援も大きな声で出来るようになったのも、すごく嬉しいから、いいこともある。
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