第1章

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 私は、生きてきた。  人間という「生き物」として。  でも、もうそろそろ、私は、人間を道半ばで、退(しりぞ)こうと考えた。  強制ではなく、自主的に……  人間を中退したら、私は、あの大空を自由に飛び回っている鳥になりたいと思った。  それには、鳥になるための、資格が必要だった。  私は、自宅で猛勉強して、鳥の資格試験を三度、受けた。  一度目と二度目は、駄目だった。  三度目の資格試験は、過去の問題が多く出題されていて、多分、運営側のミスだった事も手伝って、私は、鳥になる資格を得る事が、出来た。  鳥の資格を、取得した私は、最後の実技で、鳥になるために高層マンションの屋上から、両手を広げて、空に向かって、思いっきりダイブした。  目が覚めた。  鳥になるはずだった私は、居酒屋でアルバイトとして働いていた。  夢だったのか……  結局、私は、思い直した。  人間は、途中で退く事は、出来ない、のだと……  私は、考えた。  何においても、途中で投げ出すのは、結果的に後で後悔するに違いない、と。  今、私は、時給900円の居酒屋でアルバイトをしながら、自宅で、猛勉強を始めたところだった。  何のための勉強かって?  私は、大きく息を吸い込んで、吐き出した。  私は、深呼吸が出来る人間に戻る為に、資格試験の勉強をしている。  そう、私は、中退してしまった人間に、また戻るために勉強をしているのだ。  一度、やめてみて、よく分かった事……  人間は、やめられない……  春になって、桜が咲き誇る頃には、私は、再び人間として生きているだろう。  使っていた、鉛筆の芯が、折れてしまった。  でも、また、削れば芯は、出てくる。  私は、折れてしまった鉛筆の芯を、削りながら、ふと、思った。  人間も、鉛筆も、多分、似たようなものなのだ、と。
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