鈍感

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私が、この高校に入学したのは、憧れの先輩に近付くためだった。 親友の冴子の兄の卓弥先輩。 子供の頃から憧れではあったものの、自分の思いに気付いたのは、中学生になってからだった。 先輩は、バスケットボールを続けるため、少し離れた高校に入学してしまった。 私は、それを追って、この高校に入学した。 入学してすぐ、私はバスケットボールのマネージャーになった。 強豪のため、マネージャーは私の他にも何人かいたものの、先輩はすぐに私のことに気付いてくれた。 あの頃の私は、先輩を追って高校まで来たこともあり、かなり積極的だった。 朝練の前、先輩を呼び出して 「先輩、好きです。付き合ってください。」 雨の降る中 「すいません、傘、忘れてしまって。一緒に帰ってくれませんか?」 などと言ったりした。 今思い返しても顔が赤くなる。 おそらく言った当時もかなり顔が赤くなってしまっていたと思う。 しかし、その返事は…… 「先輩、好きです。付き合ってください。」 「オレもバスケ好きだよ。朝練前だからあんまり付き合えないけど、軽く練習しようか?」 「すいません、傘、忘れてしまって。一緒に帰ってくれませんか?」 「方角は一緒だからな。この折り畳み傘と置き傘とでちょうど2本だから、一緒に帰れるな。」 先輩と一緒の時間、それだけでも嬉しかったのだが、次第に避けられているような気がして不安になってきた。 先輩が鈍感なだけ? それとも、私以外に好きな人がいて、私は邪魔になってる? 休日、一緒に遊んでいた冴子にその事を相談した。 冴子とは別の高校になってしまったものの、今も休日には一緒に遊んでいる。 冴子は、先輩と違って察しがいい。 冴子は、私が相談するとともに、先輩とのLINEを見せてきた。 そこには、先輩からの恋愛相談が書いてあった。 「付き合ってください」と言われたものの恥ずかしくなって話を誤魔化して、朝練の前に練習した事 さらに、その勇気を台無しにした冴子からの説教文 その日は降水確率が高いのに私が傘を持ってきていないのを見て通学中に傘をもう1本買って渡そうとしたら、「一緒に帰りましょう」と言われて恥ずかしくなったこと 「置き傘」と言われたあの傘は、新しかった。 そういえば、昔から先輩はカッコ付けだかるのに恥ずかしがる可愛いところがあった。 私は、LINEを見ながら、泣いて笑った。 鈍感だったのは先輩ではなく私の方だった。
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