第一章「お兄ちゃんは最高ですっ!」

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「それは、良かったですねぇ~」 まるでマシンガンのように話す宿岩欄華(やどいわらんか)に、自身のお弁当をつつきながら、半ば楽しそうに相槌を返す少女、堀川亜依(ほりかわあい)。 亜依の目は、まるで自ら育てた子に向けるような、はたまた愛する彼氏に向けるような潤みを持っている。しかしもちろん中学生である彼女に子供はいないし、大変悲しいことではあるが、彼氏もいない。 (はぁ~・・・・「お兄ちゃん」の話をしている欄華ちゃんは可愛いですねぇ・・・) そう、この少女。完全に欄華に夢中なのである。 その思いの強さは彼女の内には他に比べるものが無いせいか、若干「友達」としては逸脱しているが本人はいたって本気である。 元々友達がいなかった亜依にとって、中学校生活で初めてできた友達である欄華には、異常なまでの執着を体現してしまっている。友達になった当初から、初めてできた「友達」に対してどう接していいのかわからず、仲が深まった今でも敬語で話してしまってしまっている。 だからか、 「もう、亜依ちゃんっ!ちゃんと聞いてるの?」 「聞いてますよー。もちろんです、私が欄華ちゃんの話を聞き漏らす訳ないじゃないですか」 この教室中で誰もが嫌煙するであろう欄華の「お兄ちゃん」自慢を嫌な顔をせずに、むしろ笑顔で聞き続けられる人間として、学校の中では唯一の人物となっている。 「わーいっ!亜依ちゃん大好きー」 椅子から立ち上がり横から抱き着く欄華。 「うっえっ、えへへぇー」 それを受け顔がゆがむ亜依。 パッと見は微笑ましい友達同士のスキンシップ。亜依の顔を見てしまえばその光景は軽い地獄絵図に変わる。 2人は教室の後ろの方で、しかも座っている亜依は後ろを向いているため、幸いなことにその顔を見た人は他のクラスメイトの中には誰一人としていなかった。 彼女がその席に座っている事は、もしかしたら彼女の社会性をギリギリ保っている一つの要因なのかもしれない。 そんな席替えで簡単に崩れ去る程度の最終防衛ラインが保たれているのには明確な理由がある。 「本当に、だーいすきー」 欄華は頻繁に亜依に抱き着き、その笑い声も、顔も、全部見ている訳で。 つまり亜依のこの醜態を、周りの人々から見えないようにしているのは、他でもないこの欄華なのだ。
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