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崔家は、代々この国、耀の太常を努める血族である。太常とは、祭祀や廟の管理を司る高官の事で、元来世襲される位ではないが、崔の祖が初めて太常として史書に名を残して以来、耀における太常とは、即ち崔家の当主を差す言葉になっている。祭祀は、力を持たない者の手によって行われれば形式だけの物になるが、力を持つ者の手で行う事で、意味を成す。彼の者の祈りは風雨を呼び、太古の賢人の声を蘇らせる。力を持つ者を生み出す唯一の血を持つ崔家は、国に繁栄をもたらす崇高な存在として、太常と言う高位を終の住み処に定めていた。
今代、太常の名を冠するのは、七代目当主の崔晏。その弟にあたるのが、中郎将を司る、崔玄だった。
「そろそろ始めてはどうか」
帝の声に、崔玄と張審は跪いて拱手する。立ち上がると兵の方へ振り返り、互いに視線を一度だけ交わし、口を開く。
号令を受けた兵は、持たされた戟に見立てた棒を構え、打ち合いを始める。兵はよく訓練されており、動きに怠惰な様子は見られない。大使は目を細め眺め、口では褒めそやしながら、
――芝居の様である。
と、思っていた。整った動きの兵達の前で、張審と崔玄という二人の眉目の良い将を舞わせれば、良い見世物になるとさえ思った。
「耀は、長らく戦火から遠い所にありましたが、兵の質は我が国よりも優れていると感じます」
「滅相もない。我が国の兵や将は、戦というものの経験がない。もし鳶国の兵と手合せすれば、たちまち地にひれ伏す事でしょう」
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