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銀の尾を靡かせ、悠久の時を往く。その長い生の中で妖しなる力を蓄え、人の姿を取る。男となれば子女の唇を蕩かし、女となれば男の指先を捉えて離さなかった。人々はこの絶佳の獣達を“狐精”と呼び、不可解で手に負えない出来事は、すべてかの者らの様な面妖な存在の所業であるとしていた。狐精とは、帝の玉体を手ずから汚し、社稷を揺るがせる悪しきものである。そう敬遠し、恐れていた。
狐精が畏怖される様になったのには、所以があった。
数百年の時を生き、力を蓄えた美しい一匹の狐精が、一人の帝を好いた。狐精は、一人の男を愛するあまり、男の生きる場所を歪めた。真綿で首を締める様に、長い時をかけ、男の力を摘み取り、傀儡とした。その目が、自分以外を映さぬように。
狐精の末路は、どんな悪辣な妃よりも悲惨であった。男にしてきた事のすべてを日の元に晒された女は、捕えられた。四肢は裂かれ、醢にされた。残った胴体は散々に穿たれ、頭部は歪み、耳と鼻は削がれ、口腔には糠を詰められた。目は開いたまま閉じられる事はない。残された肉片は、礎も立てられず、森に撒かれた。
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