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女が廃された後、誰しもその名を呼ぶ事を憚った。ただ一人の帝を愛し、己だけを愛してほしいと、一途に願っただけの哀れな女。史官達は女の事を史書に記す事を恐れ、女の名、姿形、何一つ記す事はなかった。今や女の存在を伝えるのは、童部に聞かせる寝物語だけ。女は、虚に葬り去られた。
しかし、森に撒かれた女の肉片は朽ちる事なくそこに存在し続けていた。そして、それを口にする獣がいた。やがて獣は子を成した。子らは、女の記憶の断片を受け継いでいた。長く生きた獣としての狐精とは違い、産み落とされた時から姿を自在に変える事ができた。獣の姿では陽根陰裂をもたず、人の姿を纏うことでようやく生殖を可能とする。
女の肉片から産まれた、奇怪な性質の獣。それらは後に“崔”の名を冠し、この国の深部に、密やかに細根を伸ばして行った。
「崔中郎将。崔太常がお呼びでございます」
年若い官吏が息を切らせながら走ってくる。崔と呼ばれた、武官らしい精悍な顔つきの男は頷くと、官吏に伴われその場を後にした。
「太常、中郎将をお連れしました」
官吏達の書室群の内の、一つの部屋の前で止まる。官吏が中に向かって呼びかけると、入れと声があり、部屋に招き入れられる。
「外せ」
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