IV.

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 「君の依頼で進めていた調査の結果だ。長い時間がかかってすまなかったね。」  「……Grazie.」  ルカは書類を手に取り、おもむろに読み始めた。それほど多い情報量ではないのだが、沈黙が溶けたのは何分か経ったあとだった。  「俺に盛られていたのは、こんな代物だったんだな。純粋に驚きだ。」  内容は元々わかっていた『RUTHLESS』の効能に先ほどのシオンの言葉を書き加えたものだったのだが、それはルカが知る由もない事だった。  「これが頭がおかしくなるドラッグだってことは分かってたが、作った奴は本物の悪魔だな。いったいなんでこんなもの産み出したんだ」  「用途はたぶん一つじゃないのさ。本当は別の目的で作られたものを君に盛ったんだろうね。本当の悪魔は開発者じゃなくて君の父親だよ。」  「父親はやめてくれ、反吐が出る」  ルカは顔をしかめてもう一度資料を読み返し、一箇所、文章のなかに気になる表記を見つけた。  「このオリジナルの説明書きなんだが…どういうことだと思う?」  『過剰に摂取すると細胞に定着し一体化するので危険である』。コンシリエーレは指さされたそれを覗き込んで、ああ、と素っ気なく言う。  「文字通り、成分が細胞と一体化するのさ。どこか一箇所に定着すれば、ほかの健康な細胞にまで成分が及んでいき、果ては全身に広がっていく。まるで癌細胞だよ。君はドラッグを混ぜた水で炊かれた米料理を食べたんだっけ?この上ない過剰摂取だ。」  「…つまり、俺の体は、」  「『RUTHLESS』の巣ってこと。」  吐きそうな顔をしたルカの目の前で、コンシリエーレは煙草に火をつけた。吐き出された重い煙がゆっくりと天井に上っていく。  「オリジナルのレシピは行方不明だ。あの人は持っていなかったよ。でも一つだけわかることがあるとすれば、君の体の成分を抽出して調整すれば、何度でもあの薬を―――」  「言うな!」  鋭く叫ぶと、ルカは資料を無造作に紙袋に突っ込んで、さっさと部屋を出ていってしまった。  「君はこのドラッグをこの世から消滅させたいと言っていたっけ。」  煙草の先端を灰皿に捻りつけながら、コンシリエーレは独り言を吐く。  「僕は馬鹿なことは命令しないよ。」
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