VI.

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VI.

「なんだか外の空気が吸いたいな。」 洗ったコーヒーカップを棚に戻しながら、シオンが言った。テーブルに座ったままのルカは「ああ」と気の抜けた返事をした。 恋人同士になってから、実に1週間が過ぎた。その間はコンシリエーレからちょくちょく送られてくる探偵のような任務をこなさねばならず、休日とは言い難い日々だった。シオンがだんだん不機嫌になるのが目に見えたので、ルカはどんな任務も言いつけてくれるなと事務所に連絡し、これまでに溜めに溜め込んでいた有給のようなものを一気に消化することにした。生きてさえ行ければなんでも良いというこれまでの考えを改める必要があった。 今日はそんな休暇の一日目である。ルカはうっかり昼まで眠ってしまった。シオンが初めて会った頃よりもくっついて眠りたがるため、仄かに漂うシャンプーの香りがルカの理性をとろかして、気がつけばいつも下敷きにしていた。そんな夜を繰り返せば体に限界が来るのも最もな話で。 「今日はもう遠出する時間は残ってないけど、どうする?市場のそばの海岸に行ってみる?」 シオンは起きた頃からずっと、今日出かける場所の話をしていた。ルカはよく回らない頭で考えて、とりあえず思ったことを言ってみる。 「ジェラートが食べたい。前に食べたココナッツのやつ。」 「今フレンチトースト食べたばっかじゃん!入らなくもないけど…。そんなに気に入ったんだね。」 「あれは格別だ。お前が教えてくれたから。」 「へへっ、感謝してね。じゃあ市場に行こうか。帰りに買い忘れた調味料もゲットしたい。」 「了解だ、テゾーロ」 思い立ったら即家を出る。相手がいるのに気持ちの不自由がなく、気楽だ。生活リズムは同じだし、色々と相性がいい。ルカはそれなりにこの生活を楽しんでいた。 市場までの道のりはそう長くもない。世間話をして少し歩けばもう海が見えてきて、賑やかな声が耳に届き始める。最近は耳障りだとも目が痛いとも思わなくなってきた。
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