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「選り好みなんかしてないもん」
もん、って。三十路過ぎて結婚に焦ってる女の口調じゃなさそうなんだけども。
「じゃあ逆にこの二年で出会った男で、カナコさんが気に入ったのにお断りされた男ってどんな奴でした? 印象に残ってるとこで言うと?」
口紅がよれるのも気にせずカナコさんは渋い顔をしてうんうん唸りはじめた。
だいぶ時間をかけて記憶を掘り起こし、途中で届けられたオレンジジュースを一口飲んで、それからカナコさんはオレンジジュースを二度見した。
「あ、これ、あたしダメなやつ」
「ダメってなんですか。好き嫌いはよくないですよ」
カナコさんは実に大人げなく口紅がちょっとついたグラスを僕の方に寄せてきた。
「いや、なんかダメだってこれ。小さい頃小児科でもらった風邪薬の味すんだもん」
「そんなバカな……!」
ついついグラスを受け取って一口飲んでしまう。言いたいことは分からなくもないが、これは正真正銘ブラッドオレンジジュースだと思う。こんな高級な味の風邪薬出す小児科あるなら逆に行ってみたいもんだ。
「あたしオレンジジュースってトラウマなんだわ、そういえば」
「じゃあなんでさっきウーロンやめたんですかっ? 僕は最初ウーロンって言ってましたよね?」
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