だからカナコさんは結婚できない

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 僕はフランを一口スプーンですくい、そのなめらかな舌触りを確かめる。  フランは日本で言ったら茶碗蒸しに当たるものだけど、茶碗蒸しと違うのは卵感よりはるかにクリーム感が強いこと。しっかり裏ごしされた中に、油分の重さが出ている。フォアグラの脂だけじゃなくふんだんに生クリームが使われているのが容易に想像できる味だ。味の濃さでなく脂の濃さで重厚感が表現されていて、見た目より食べ応えがある。ワインにも合うし、こういうのは洋食でないと味わえないんだよなあ。たまに食べるとすごくおいしい。 「フォアグラに苺か……斬新かと思ったけど字面ほど意外性がないんですね。ていうか、マルメラータってなんでしたっけ」 「マルメラータって要はジャムだよね。フォアグラはやっぱりある程度パンチの効いたソースでいただくのがセオリーだからなあ。あっさりしすぎると脂に負けるんじゃない? そういう意味では甘いソースも定石なのよね。柑橘系よりはベリーの方がしっくり来るかもね、たしかに。あとはまあ季節感とか」  そう言いながら、カナコさんはガラスの容器にこびりついたフランを一生懸命こすっている。カナコさんはフォアグラに目がないのだ。 「いやちょっとさすがにこそげすぎですよ、カナコさん」 「だってまだフォアグラが……」  真剣な顔でそんなことを言うカナコさんを見ていると、三十路超えなのも忘れてついつい「また買ってあげるからそこまでにしておきなさい」と言いたくなる。  にやにや笑ってしまった僕と目が合って、カナコさんは気がついたようにお澄まし顔を作って白いナプキンで口元を軽く撫でた。
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