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だからカナコさんは結婚できない
土曜日。昼間からワイングラスのふちを口紅で汚して、カナコさんは昔から変わらない芯の通った声で言った。
「で、それについて君の意見は? 是非きかせてもらいたいんだけど」
「ああ……そうだなあ、えっと……あ、そのネックレスいいですね。カナコさんらしくて、似合ってるなあ」
「あらありがと。で、質問の答えは?」
にこりとほんの一瞬微笑んだが、カナコさんの視線はそんなことでは逸らせやしなかった。
おい誰だよ、女はとりあえずアクセサリー褒めときゃ機嫌が良くなるなんて嘘っぱち書いた奴は。確か新書か何かで読んだはずなんだけど。誰の何て本だったかさっぱり思い出せないが、今度著者に会ったら僕は返金を求める権利があると思う。
僕は曖昧な笑みを浮かべながら上等なクリーム色の厚紙に印刷されたメニューを指先で弄び、黒いエプロンをまとったソムリエだかウェイターに助けを求める視線を送った。
いいから早く料理をもってきてくれ! この女黙らせろよ早く!
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