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第十二話
おしまは小料理屋を再開した。
詩乃が大家に掛け合い処分を待ってくれていたのだ。おしまは詩乃に感謝し、いつだってタダで料理を提供すると言った。
おしまの関所破りは大罪だが、ことが明るみになったきっかけを命がけで伝えに来てくれたこと、そしてはっきりとしたした証言をしてくれたことにより一味を一網打尽できたことによってお咎めなしとなった。
関所破りのおしまを匿った六薬堂にもそれなりの罪があるものだが、一連の事件でそれなりに手助けをしたということで、これもまたお咎めなしとなった。
おしまの体に付いていた傷は徐々に消えて行ったが、夜の闇は怖いと言ってしばらくは震えていたが、事の真相を聞いた辰吉の看病により何とか夜を過ごせるようになり、そのおかげで、辰吉とめでたく祝言を上げることとなった。
米屋のたか子の女中、おみつは等々寺の地下牢で亡くなっているのが見つかった。等々寺の住職の話しでは、今後の話―長崎へ行って外国人相手の女郎にすると聞いて捕まえてきたその日に舌を噛み切ったという。
それを聞いたたか子は、あの時、やっかみから結婚を反対しなければ、おみつは今なお生きていたのではないかと後悔から、性格を改め、花嫁修業に精を出していると聞く。
何とか生きていた誘拐された女たちも大江戸に戻ってきて、これからは人づきあいをすると、心に決めて何とか日常に戻っていた。
詩乃は川原の土手に腰かけていた。
「ご苦労様でございました」
―また、足音も、気配もしなかった―振り返れば空蝉が立っていた。
「役に立ちゃしなかったよ。結局、真咲さんは死んでしまったし、」
「篠塚様から、生きていると信じて田崎様の奥様は逝かれたそうです。それは幸せな最期だと思う。娘が親より先に死んでいると知って逝くよりは。とおっしゃっておりました」
「そうかね」
「奥様から、大儀であったと伝えてほしいそうです」
詩乃が首をすくめると、空蝉は立ち去って行った。
「おや、お暇なお上」
そこへ岡 征十郎が近づいてくる。岡 征十郎は立ち去った空蝉を見ていたが、詩乃の悪態に詩乃のほうを見る。
「お前は、」
「いい風が吹いてきてる。もう、秋だね」
「そうだな」
「よく動いてくれたね。ありがとうね」
「……役人の務めだ」
「あたしは思うんだ」
詩乃はそう言って空を見上げる。
赤とんぼが飛んでいた。
「何を?」
「なんもなくて、岡 征十郎をからかっている時が、一番いいと」
岡 征十郎は鼻を鳴らした。
だが、本当に平和で、くだらないことで日常を終えるほうが、それが贅沢だと思われた―。
(終)
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