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京都、寺町通りを北へ上がった所に古い茶葉屋がある。その二歩堂茶舗が真由加の行きつけだった。
彼女自身というよりは、京料理「南や」の若女将として。食事の際に出す緑茶の仕入れ先と言ったほうが正しい。
茶葉の缶を手から手へ入れ替え、試し飲みしながら店主と話し込む真由加。背中にきっちりと締められた藍色のお太鼓を、太一はずっと眺めていた。商品の見物に飽き、端にある座椅子に腰を下ろしてもうだいぶ経つ。
「ご主人。こっち、新しい銘柄やろか。味は浮雲とよう似てっけど、えらい爽やかになってんなぁ」
「これから夏でっさかいな。若い人向きですわ。南藤さんとこのお料理にもよう似合うんちゃいますか」
「せやなぁ。うちの料理長にも訊いてみるわ」
「ほな、幾らかお試し、お包みしますわ」
「いつもすんまへん、おおきに」
浮雲、というのは新作らしい銘柄だった。
「花嵐」、「祗園」、「烏丸」、緑茶にもそれらしい名前が一つ一つにあるということを、太一は真由加に出会って初めて知った。
彼女に付き合って、何度か安物ではないそういうお茶を口にしたことがある。その時はなるほど、緑茶はこんなにも複雑で旨いものだったのかと太一も感心した。真由加の嬉しそうな、けれどもどこか凛とした表情は今でも忘れられない。
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