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店主が奥へ引っ込むと二人だけとなり、その時ようやく、店いっぱいに広がっている緑茶の香りに気がついた。
「香ばしい香りだな」
太一が言ってみると、
「そうえ。ここは昔からずっとそうや」
「お前がガキの頃から?」
「ひいお婆ちゃんが女将やってた頃から変わらへん。あんたも知ってるやろ」
「知らねえ。俺、生まれは群馬だから」
真由加は茶葉の缶を手に眺めていた。衣紋から襟足が絹のように、白くなめらかに伸びる。扇情的というよりは、むしろ燃ゆるような美しさだった。
「……変わんねえのは、いいと思うけどよ」
太一は真由加から目を離さず言う。
「折り合いつけんのも、大事だと思うけどな。……緑茶や日本酒だけじゃなくてワインも置いたらどうだ。お客さんに、言われたんだろ」
「……うちが出してんのはただの緑茶とちゃう。ちゃんとこうして選んで、お料理に合うようなお茶や」
真由加は振り向かず、音もなく緑茶を飲み干した。
「そういう事じゃねえ。頑なにこだわんなって言ってんだ。外国人も来る時代だぞ」
「せやから」と、真由加はかすかに強く答える。
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