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俺の家にはたぬきが住んでいる。
飼っているのではなく、勝手に住み着いているというほうがより正確だ。
しかもこのたぬき、人語がわかる特異なたぬきであるようだ。
ようだと、歯切れの悪い言い方になるのは、このたぬき、俺の前では普通のたぬきなのだ。
ある日のこと、いつものように晩ごはんと称し、
酒のつまみ(笹かまぼこ)を2、3きれやったことがあったが、
翌日起きてみるとメモ紙が1枚。
「きょうはにくがくいたい。 たぬき」
その日の晩ごはんは、アジの開きにした。
また別の日のこと、休日につき惰眠を貪っていた俺は、昼も過ぎた午後3時ごろに目が覚めた。
するとまたしてもテーブルの上に紙が1枚。
「あさごはんまだ? それとひるごはんも。 たぬき」
もちろん晩ごはんは、いつもと同じ量を出した。
「ところで、そろそろお前にも名前をやらにゃいかんだろうな」
たぬきは理解していない演技(と思う)を見せるが、構わず続けた。
「なにせ、『たぬき』と呼ぶには少々やり辛い場面が多々あることだろう」
いや、たぬきをたぬきと呼ぶことになにか問題でも起きるのだろうかと想像を膨らませてみるが、案外困ることはないかもしれないと思った。
「ま、まぁ、名前のほうがなにかと便利かもしれないからな、よし」
少しばかし誤魔化してみたが、たぬきのヤロウ、心なしかあきれたような顔である。
「うん、そうだなーうん」
名前をつけるということは決めていたのだが、果たしてどんな名前がいいのかそこまでは気が回らなかった。ひとしきり悩んだ後で、腹が減ったので飯にした。
とりあえず冷蔵庫にあった肉を焼いて2、3切れをたぬきに食わし、俺も食べた。
ひらめいた
「そうだ、お前肉好きだったな。じゃあ『おにく』にしよう。いや『にく』だと生々しいからな、肉だけに。」
というわけで今日から『たぬき』は『おにく』になった。
『おにく』は嫌そうな顔をしていたが、肉を食って満足したようだった。
翌朝、テーブルの上に紙があった。
「すきなものをありがとう。 おにく」
どうやら気に入ってくれたようだった。
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