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柳が夏を過ごす別宅は、別宅を持てるほどの家柄の割に、特に手入れが行き届いている訳ではない。庭の草はボウボウと伸び、座ったら壊れそうな昔は白かったであろう、朽ちたブランコが時折音を立てて揺れている。柳の生活範囲以外はいつも暗く、掃除の手が行き届いていない別宅の中で、時々柳と私が星を見るために窓際に置いてある真新しいテーブルと椅子が妙に浮いている。
柳曰く、夏しか過ごさないし、掃除が面倒くさい、と言うことだが、確かにこの部屋数を毎年真夏に掃除するのは億劫だよな……と、掃除好きな私でも納得してしまう。
面倒臭がりな柳が生活範囲だけは掃除しているのだからいいのだろう。
「またイチコは私の家が荒れてるって言いたげな顔してるわね」
柳はおっとりとした見た目の割に結構鋭いことを言うので、私の心臓はビクリと跳ね心拍数を速めた。
「相変わらず柳は私の心を読んでるみたいだね」
「やっぱり思ってたんだ。いいの、私は部屋とベッドとキッチンが綺麗なら気にしないんだから!」
「……ベッドが綺麗とかいう割にはここでごはん食べるから、パンのカスほっといてるじゃないか……」
「いいの。だってイチコが綺麗にしてくれるし」
私は笑いながら柳の使っていたシーツを剥がした。シーツからは柳の甘い匂いが強くして、乱れた心拍数がより乱れていくのを感じた。
私はどうしてこんなにも柳に惹かれるのだろう。私とは違い、白くて冷たい肌も長く黒い髪もふわふわした服装も笑った時に少し細める目も、愛おしいと感じる。
「ねぇ、柳。今度デートしない? 私、柳と動物園行きたい」
「ナイトサファリで車ならいいわよ」
「そうだった、柳は出不精だったね……」
「そもそも私、夜型だし、日光に弱いから無理だもの」
なんだかんだ、私は柳に誘いを断わられることが多い。夜型や日光に当たらないことを考慮して外へ誘っても、柳は一度も私とこの家から坂の下まで以外で会ってはくれない。ここまで出不精が徹底してると納得せざるを得ないが、面白いかと聞かれると面白くはない。
「……面白くないって顔してるわね? 私はイチコと一緒にくっついていられるこの家が好きよ」
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