理を余す哥

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締縄が張り巡らされ、水田に祭りの灯りがぼんやりと輝いており、木組の舞台の方は一際明るく、鈴を持った舞子が踊り、太鼓が打ちならされていた。 祭りが始まったのは夜が更けてしばらくしてからであった。リゼンはカヨリの細い手を引っ張って屋根に上げてやり、そこから二人は一緒に祭りを見た。 まもなく舞台に白い着物を幾重にも纏った女がするりするりと現れて、手に持った神鈴を二、三度鳴らし、正座した。 「綺麗!」 カヨリが呟いた。 リゼンは何も言わなかった。 女は髪を結い、櫛をいくつも差してあって、腰の短刀を帯から抜くと、それを頭上にかかげて首を垂れる。彼女が再び顔を上げた時、端を朱く塗った女の目と視線があった気がして、どきりとした。 「あの物の怪も村から出て行くのかな」 カヨリが囁いた。 「なんで?」 「ほら、お祭りの女の物の怪って村からいなくなっちゃうじゃん」 リゼンは表情を曇らせた。 まだリゼンが七つの頃の話であった。その年の祭りのあと、リゼンが畑の道を歩きながら家に帰る途中、提灯の行列が向こうの畦道を歩いていて、先頭を歩くのは祭りの女の物の怪であった。 こっそり隠れながら提灯行列についていくと山の中に入って行く。入ってはならぬという鳥居をくぐり、入って行く。社が一つあって、女を一人残して村人は去って行く。女は泣いていた。女の母親であろう者も泣きながら別れを告げて女を残して山を降りる。 リゼンが息を殺して木の陰から見ていると、しばらくしてから木々がざわめき、社の向こうから一匹の酷く醜い物の怪がぬめりとやってきて、獣と人の混ざったような太い腕で女を抑え、首を露わにし、揃った歯を剥き出しにしてそこに喰らいついた。 「私も村から出たいな......もっと綺麗な景色のあるところに住みたい」 カヨリの声でハッと息が戻る。
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