理を余す哥

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無残な記憶が古くなって消えて行く。 ゆっくり顔を上げて、カヨリの方を見る。彼女は色々空想しているのか少し楽しそうな顔をしていた。 彼女はこういうときに鼻歌を歌う癖があった。リゼンが昔から知っているカヨリの鼻歌であった。 リゼンは息を吸って、喉に詰まった生唾を飲み込んだ。カヨリもいつか喰われるのかもしれない。 それが恐ろしかった。 「いつか一緒に村を抜けるか?」 カヨリは少し驚いた顔をして笑った。 「うん! 一緒に行きたい!」 リゼンも安堵して笑った。 ※ 四年が経った。 その間に父が亡くなった。母はとっくに亡くなっていたからリゼンは孤独になった。父と二人で暮らしていた家は一人になると妙に広く、寂しかった。 「リゼン、人参切っておいてよ」 カヨリが土間の方から言った。 「人参どこ?」 「ここ! 来て!」 「はいはい」 リゼンは帳台から立ち上がると、土間に行った。カヨリが夕食を作っていた。桶の中に水に浸した野菜があって、カヨリは米を研ぎながら、肉を切っていた。 カヨリの白いうなじが夕陽に照らされて汗をかいていた。 「どうやって切るの?」 「なんでもいいよ」 「うん」 リゼンは人参を取ると、包丁で皮を剥いてシャクシャクと刻んだ。 「あ! 何してんの!」 「え」 「刻むな馬鹿! 鍋って言ったじゃん」 「なんでもいいって言ったじゃん」 「少しは考えるの!」 「くそぅ」 カヨリは時々、リゼンの為に夕飯を作りに来る。リゼンは料理が得意ではないから時々カヨリと喧嘩になる。 喧嘩しながら飯を作ると出来上がる頃には日が暮れている。カヨリが囲炉裏に鍋を吊るしてそれでようやく食べられる。 「リゼン......あんた十七よね」 「うん」 「料理くらい覚えな」 「無理面倒い」 リゼンは鍋から具を取って頬張りながら言った。米も頬張った。カヨリが来ているときは美味い飯が食えた。 「ほっぺたついてるよ?」 カヨリが指を伸ばしてリゼンの頬についた米一粒を取って自分で食べる。
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