貴方は僕の高嶺の花

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ファミレスで夕食をとって帰る頃には、辺りは夜のヴェールに包まれていた。 電灯に負けまいと、星が闇空で目映い光を放っている。 竜也は光介と並んで、のんびりした足取りで夜路を歩いた。 「ごちになりました、水月先輩」 「どういたしまして。ところでさ、竜也、相談あったんじゃねーの?」 「ああ、そうでしたね……」 自分で「相談がある」なんて言っておきながらすっかり忘れていた。 本当は特に相談なんてない。 光介と二人きりになりたいばかりに吐いた嘘だった。 「おれでよければ、何でも言えよ」 八重歯を覗かせる光介の顔が眩しい。 貴方が欲しい。そう言ったら、光介は驚くだろうか。 「なんでもですか?」 「おー、なんでも聞くぜ」 「くだらないことでも?」 「もちろん。他人にとってくだらなくても、おまえにとっちゃ大事なことかもしんないし」 光介は圧倒的な実力を持ちながら、優しくて、意外と後輩想いだ。 気に入られているとは思うけれど、優しくしてくれることにきっと特別な理由はない。 手を伸ばせば触れあえる距離。なのに、彼はどこか遠くの惑星のようだ。 竜也は切なげな瞳で光介を見詰めた。 「水月先輩。名前で呼んでもいいですか?」 「名前で?いいぜ。でも呼び捨てはやめろよ」 「はい。光介先輩」 「なんだ?」 「いえ、呼んでみただけです」 「なんだよそれ」 意味わかんねー。ケラケラと楽しそうに光介が笑う。 立ち止まった自分を置いて歩きだした光介の背中を、竜也は見詰める。 弓を引くしなやかで細い腕。たまらない気分になる。 気付いたら、竜也は彼の腕を掴んでいた。
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