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湿った夏の風が髪を揺らす。一之瀬竜也は黒髪の癖毛を軽く掻きあげた。
別に格好をつけているわけじゃないにも関わらず、周囲に居た女子が黄色い声をあげる。
高校一年生、ただいまモテ気真っ盛り。というわけではない。
何歳の時も女子から人気があった。年がら年中モテ気なのだ。
それを別段嬉しいと思ったことはない。
集まる視線をスルーして、竜也は下駄箱に向かった。
「よう、イケメン。相変わらずモテモテじゃん」
にやつくような声に竜也が振り返る。
声に違わない、にやりとした笑みを浮かべて水月光介が立っていた。
何気ない朝の一コマにすぎない。
それなのに、竜也の胸はどうしようもなく高鳴る。
「おはようございます、水月先輩」
「おはよ」
三白眼気味な猫目を細め、八重歯を覗かせる光介に心臓が一際高く跳ねる。
薄茶色の髪に琥珀色の瞳、白い肌。
表情が残念だけれど綺麗に整った顔。背は高いがほっそりした体。
そのどこをとっても、竜也を魅了する。
竜也の恐ろしいくらいに端正な顔はどこまでも無表情で、動揺があらわれることはない。
そのことが救いだった。
まさか、彼に好意を抱いているなどとは口が裂けてもいえない。
ただの先輩と後輩。その関係だけで充分だ。
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