貴方は僕の高嶺の花

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彼に恋に落ちたのはいつ頃だっただろう。 光介と他愛ない会話をしながら、竜也はぼんやりと物想いにふける。 この高校では、必ずどこかの部活に参加しなくてはいけなかった。 高校は勉強だけをするところじゃない。青春をするところでもある。 そんな陳腐なモットーを抱いた学校長の方針だ。 普通高だけれで偏差値が高めで大学進学を目指す生徒が殆どなので、 その方針は迷惑極まりない。 母子家庭で、少しでも家計を助けたい竜也にとってもまったくもって迷惑な条件だ。 大学にはいかないつもりだけれど、放課後はバイトをしたい。 貴重な放課後を奪われるのは本当に困ったものだ。 生徒の心を反映し、幸いにも帰宅部に近い部活がたくさんあった。 童話部、手話部、家庭部、映画部なんかはその最たる例だった。 文系の部活に入ってもよかったのだが、どちらかというとじっとしているより体を動かす方が好きだったので、体育会系の部活を選ぶことにした。 最低週一回だけ部活に顔を出せばよく、いつでも自由に練習に参加できる。 そこだけが理由で、弓道部を選んだ。 「うおー、噂のイケメンくんが入ってくるとはなー」 初めての部活の日、光介はそう言って声をかけてきた。 その時に一目惚れしたなんて、ベタな展開はなかった。 彼は小奇麗な顔をしていたが、自分の方がもっと優れた顔をしていたし、 背も高いけど自分の方が高い。 なにより、特別女が好きというわけじゃないけれど男に魅力を感じるわけじゃなかった。 そんな自分を射抜いたのは、彼が放った矢だった。 白い着物からのぞく、ほっそりとした腕。 矢を番えた瞬間の琥珀色の瞳は、ぞくりとするくらい真剣だった。 弓を引き、放つ。洗練されたその動作は美しかった。 彼の放った矢は放物線を描き、的を逃すかに思えた。 しかし、その矢は確実に的のど真ん中を射抜いたのだ。 同時に、竜也は心臓を貫かれた。 高校から弓道を始めた天才射手。 光介がそう呼ばれていることは、あとから知った事実だった。
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