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私は歌う。
彼女の歌を。
目覚める時に聞こえた彼女の歌声を、今もよく覚えている。決して忘れたりはしない。
神隠しは私の妹、望子の失踪で最後ということになっている。先輩の父親に関しては、バラバラ殺人として捜査が継続されているけど、犯人が見つかることはない。
私が目を覚ました時、本当に全てが終わっていた。
終ってしまって、いた。
彼女の正体だとか、先輩の家系だとか、詳しく説明された。けれど、何も耳に入らなかった。何も、考えられなかった。
彼女がいない。
私の半身はもがれてしまった。
ずっと、彼女の傍にいた私の身体はボロボロで。彼女を失った喪失感から、心も病んだ。長い療養が必要だと診断された。
先輩は、叶人さんはそんな私に付きそって、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。私と叶人さんが一緒になるのは、自然な流れだった。
自然な流れだと、誰もが思ってくれた。
私は歌う。
愛しいお腹の子のために。
私は心を病んでいる。落ち着いてはきたけれど、完全な回復などはない。
私は彼女に利用されていた可哀想な子。それでなくても、ぼんやりとした鈍い人間。そう思われている。
だから、簡単だった。
誰にも疑われなかった。
あの子が封じられた石は、叶人さんの家に安置されているのだ。
穢れを与え続け壊してしまうのは、時間がかかった程度で容易いことだった。
歌う。歌う。歌う。私は歌う。
あの子のために。
たった一人の大切な子のために。
石が壊れた日に、お腹に宿った子。私は歌う。この子のために。今度こそ、この子を守る。
歌う。歌う。歌う。
あの子のためだけに歌うと約束した。
ずっと一緒だと、約束したのだ。
今度こそ、叶えよう。
誰にも、邪魔などさせない。
だから、安心して生まれてきて。
封印の石は、もうないから。
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