彼女の歌声

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 嫌い。嫌い。嫌い。大嫌い。  彼女を傷つける人は、彼女と私を引き離そうとする人は、皆みんな大嫌い。  私はただ、彼女と一緒にいたいだけなのに。彼女もそれを望んでくれているのに。どうして邪魔をするの?  許さない。  そんな人はいらない。  だから私は、 「だから、食べたのか?」  目の前の男が、きつく私を睨み付ける。 「君とお姉さんの仲をさこうとしたから」 「………あの子は、お姉ちゃんのことを悪く言った」 「そんな、ことで」  そんなこと?  これ以上の理由なんて、ありはしない。  お姉ちゃんに嫌な思いをさせたり、傷つけたり、悪く言う人なんていなくなっちゃえばいいんだ。 「そんな身勝手な理由で、一体今まで何人が犠牲になったんだ」 「知らない。そんなの。ほっといてよっ」  あぁ、失敗した。  お腹が空いたからって、夜中に出てくるんじゃなかった。見つかってしまうなんて。  前に嫌な奴らを何人も食べたら、騒ぎになってしまった。だから、ずっと我慢してたのに。我慢、できてたのに。  久しぶりに食べたら、我慢できなくなった。お腹が空いて仕方なくなった。 「私はただ、一緒にいられればそれでいいのっ。邪魔しないでよっ」 「君は、人に害をなしすぎた。これ以上野放しにはできない」  言って、男は右手をこちらに伸ばす。その握り拳はひどく嫌な感じがした。 「それに、このままじゃその大事なお姉さんも無事ではすまない。こんな邪気の塊とずっといたんだ、近い内に身体なり精神なりに影響が出る。もう、出始めてるかもしれな」 「嘘つきっ!」 「っ、しまっ………」  飛びかかり、力ずくで右腕を千切り取る。勢いよく血が飛び出した。 「嘘つきっ、嘘つきっ」   赤い炎の熱さも、投げつけられた礫の痛さも覚えている。彼女を殺したのは人間じゃないか。私たちはただ、ひっそりと暮らしていただけなのに。許さない。信じない。  今度こそ、私が彼女を守る。  歌う。歌う。歌う。彼女の歌を。   ひんやりとした夜の山に、静かに響く。  右腕だけは、嫌な感じがしてどうしても近づけなかった。他は全部、腹に入れた。 腹に入れたのに、全然満たされない。  私は歌う。彼女を思って。 「………………お姉、ちゃん」  私の心を満たしてくれるのは、彼女だけ。
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