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一つ上の学年に転校してきたばかりなのだというその人は、なぜだか昼に顔を見せるようになった。
「キコちゃんてさ、いつもはお姉さんと二人で食べてるんでしょ?の、わりにはお姉さんの姿を見たことないんだけど」
「最近、体調を崩していて。ずっと休んでるんです」
「寝不足そうなのはお姉さんが心配で?」
「そんなとこです」
曖昧に笑って、誤魔化す。嘘ではない。
「本当に仲がいいんだね。秘訣とかあるの?」
「私がみぃちゃん大好きで、みぃちゃんも私を好きでいてくれてるだけですから」
「そっか」
話題はほとんどみぃちゃんの事だった。
仲がいいと噂になっているのに、見たことないからと先輩は興味津々だった。いくらみぃちゃん語りをしても、引くことなく聞いてくれる。その事が物珍しかった。
「そういや、この前のあいつも行方不明になったらしいね」
「この前の?」
何の事だろうと首をかしげる。
「キコちゃん。まさか忘れてはいないよね?初めて会った時の事」
「あぁ、それなら覚えてはいます。ただ、もう済んだ事だったので」
顔はよく覚えてなかったし、名前はわからなかったしで、あの後それとなくみぃちゃんに探りを入れるはめになった。でも、それももう終わったことだ。
「もうこれで何件目だっけ?段々ペース早くなってきてるし」
「先輩、厄介な所に越してきちゃいましたね」
学内外問わず、神隠しが続いている。不必要に外を出回る人も減ってきた。前の時よりも、起きる範囲は広がっていた。
行動できる範囲が広がったし、お腹が空いて我慢できなくなってしまっているから。
「うん。でも、知ってて来たから」
先輩が、じっとこちらを見つめてくる。静かな微笑みと共に。
「父が、ここで起きていた神隠しの事を調べていて。目星がついたって連絡が来て、それきり」
じっと、見つめ返す。
「右腕だけ見つかったのが、僕の父なんだ」
そうか。あれは先輩の父親だったのか。
「父が持っていたはずの物がなくなっていて、ずっと探していたんだ。でも、それももう終わり。後は、片をつけるだけ」
「先輩は………」
「うん?」
「………いえ。何でもありません」
最初から、そのために近づいてきたのか。話を聞きたがったのも、それでだったのか。痛みはない。ただ、凪いでいる。
先輩は、悲しそうな微笑みを浮かべていた。
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